大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)957号 判決

被告人 池上実

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第一点について。

原判決が被告人の罪となるべき事実として、被告人は昭和三一年一二月三日午前九時頃東京都江東区南砂町四丁目六二五番地幸陽建設有限会社飯場内において、岡部喜代司所有の腕時計一個及び山田耕作所有の紺サージズボン一本(以上価格合計金八〇〇〇円相当)を窃取したものであるとの事実を認定し、これに対する法令の適用として刑法第二三五条、第五四条第一項前段、第一〇条を示していることは所論のとおりである。そして原判決の右認定事実は原判決引用の証拠によりこれを認めるに足るものであるが、そもそも窃盗罪は不法領得の意思を以て事実上他人の支配内に存する財物を自己の支配内に移すことによつて成立するものであるから、窃盗罪の罪数はこの事実上の支配を標準として決すべきであり、財物の所有権の個数によらないものと解すべきところ、原判決引用の証拠によれば、被告人は前記日時幸陽建設有限会社飯場管理者の事実上の支配内にある岡部喜代司所有の腕時計一個、山田耕作所有の紺サージズボン一本を不法に領得する意思を以て自己の支配内に移したものであることを認めることができるので、被告人の右所為は一個の窃盗罪を構成し、財物の所有者の数に応ずる二個の窃盗罪に触れるものと解すべきではない。しかるに原判決が、被告人の右所為につき、一個の行為にして二個の罪名に触れるものとして刑法第二三五条第五四条第一項前段第一〇条を適用処断しているのは、所論のように法令の適用を誤つたものといわねばならないのであるが、この法令適用の誤は、一個の窃盗罪として処断すべき所為を、同種類の窃盗罪の観念的競合による処断上の一罪として処断したもので、同一罰条である刑法第二三五条によつているのであるから、判決に影響を及ぼすことが明らかであるということはできないのである。しからば原判決の事実誤認又は法令適用の誤を主張する論旨は結局理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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